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名古屋高等裁判所 昭和47年(ラ)80号 決定 1972年8月07日

抗告人 兼松江商株式会社

右代表者代表取締役 三津正四郎

<ほか三名>

右抗告人ら代理人弁護士 辻巻真

同 辻巻淑子

相手方 鈴憲毛織株式会社

右代表者代表取締役 鈴木憲一

右代理人弁護士 小山斉

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人ら会社の負担とする。

理由

一、抗告人ら会社は「原決定を取消す。本件保全処分の申立を却下する。申立費用および抗告費用は相手方会社の負担とする。」との裁判を求め、相手方会社は「本件抗告を棄却する。抗告費用は抗告人ら会社の負担とする。」との裁判を求めた。

抗告人ら会社の本件抗告の理由は別紙一記載のとおりであり、これに対する相手方会社の答弁は別紙二記載のとおりである。

二、よって考えるに、本件記録によれば、相手方会社は昭和四七年四月一四日名古屋地方裁判所に対し会社更生手続開始の申立をなし(同裁判所昭和四七年(ミ)第一号事件)、かつ右手続開始決定前の会社の業務および財産保全のため本件保全処分の申立をしたところ、同裁判所は右申立にもとづき昭和四七年四月一七日別紙三記載のとおりの保全処分の決定をしたことならびに本件抗告は右決定に対するものであることが認められる。

しかし乍ら、会社更生法第三九条に定める保全処分は、会社更生手続開始の申立があった場合、これにもとづき右手続開始の決定がなされるまでの間に会社財産が散逸し減損することを予防するとともに会社業務の一応の安定を計り、もって将来右更生手続が開始されるにいたった場合における事業の維持更生が円滑に進捗することを慮ってなされる暫定的な保全の措置であるから、右更生手続開始決定がなされた場合には右処分の効力は当然に消滅し、その後の会社の事業の経営並びに財産の管理および処分に関する権利は管財人に専属することになるものと解すべきである。

したがって本件保全処分においてなされている抗告人ら会社に対する相手方会社の金銭債務の弁済を禁止する旨の決定も、もし右更生手続開始決定がなされた場合には当然その効力は消滅し、その後の右金銭債務の処理は管財人の専権に属し同人においてこれを行うことになるのである。してみれば更生手続開始決定以後は右保全処分の取消を求める利益はないというべきである。

ところで本件においてはすでに昭和四七年七月一日午前一〇時に相手方会社に対し更生手続を開始する旨および弁護士福岡宗也をその管財人に選任する旨の決定がなされていることは、本件記録に編綴されている名古屋地方裁判所書記官江場嘉一作成の決定正本の写により明らかである。そうとすれば、本件保全処分は当然にその効力を失っていること前段説示のとおりであるから、これに対する本件抗告はその利益を欠くにいたったものというべきである。

よって、本件抗告を却下することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法第四一四条、第九五条、第八九条を適用し主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡本元夫 裁判官 丸山武夫 土井俊文)

<以下省略>

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